夫婦の問題,離婚
a couple's problem
離婚の際に決めておくべき事について
「先日,夫or妻と話をして別れることになりました。
離婚する前に決めなければならないことは何かありますか。
離婚の際に法律上決めなければならないのは親権者だけ
離婚の際に決めておくべき事って,なんでしょうか。
金銭的要求をする方から相談を受けた場合には,「財産分与,養育費,慰謝料のことをきちんと約束させなさい。」といった回答することが多いです。
ですが,金銭的要求をしない方から相談を受けた場合には,「未成年のお子さんがいらっしゃるのであれば親権者だけ決めなさい。離婚の結論について争いがないなら先に離婚届を出しなさい。」と回答することが多いです。
何が言いたいかと言いますと,法律上,離婚する際に決めておかなければならないのは,未成年者の親権者のことだけである,ということです。
その他のことは,離婚の後で決めてもよいですし,離婚後であっても養育費や財産分与,慰謝料の請求は可能です。ただ,消滅時効の問題はあります。
こちらにまったく非がなくても,相手方がどれだけ悪い夫,悪い妻であろうとも,調停,さらには裁判という手続を経て離婚の結論を得るまでには相当な負担を強いられます。
離婚したくても,相手が条件面で離婚に応じず,裁判の負担を考慮して納得のいかない支払や譲歩を余儀なくされることも少なくありません。
こちらからは金銭的な請求をするつもりがなくて,離婚という結論について動かないのであれば,先に離婚届を出しておいたほうが,今後の展開において有利ということになります。
逆に,金銭的な請求をするのであれば,離婚を成立させてしまって相手を自由にしてから条件面の交渉をするのは至難の業です。したがって,財産分与,養育費,慰謝料についてきちんと約束をしないまま離婚をしてはダメということになります。
以下,親権者,養育費,慰謝料,財産分与の意味について簡単に説明しておきましょう。
- 親権者
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親権者というのは,財産管理権と身上監護権を含む親としての権利の総称を言います。
民法は,親権を行う者は,子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負うと規定しており(民法820条),身上監護権の具体的内容として,居所指定権,懲戒権,職業許可権を定めています。
財産管理権としては,子の財産の管理権及び代理権の規定があります。親権者と似ている言葉で,監護者という者があります。
民法は親権者とは別に,監護すべき者を定め得ることを規定しているわけですが,監護者というのは,親権のうち身上監護権しか有していない者を意味します。
ちょっと古い統計ですが,平成12年の統計によりますと,調停,審判を経た離婚事件1万6953件のうち,父親を親権者と定めた者は2298件,そのうち母を監護者と定めたものは236件,母を親権者と定めた者は15245件,そのうち父を監護者と定めた者は16件,こんな感じです。調停・審判を経た事件の中での統計ですから,親権自体は争われていない事件も含んでいると思われますが,父親が親権者となっている例が,13パーセントくらいあります。必ずしも母親が親権者になるとは限らないことに注目すべきです。
- 養育費,
婚姻費用 -
養育費というのは,扶養義務を負う子らを養育するための費用を言います。
ただ,離婚していない時点では,妻を扶養する義務も負っていますので,養育費に妻を扶養する費用も含めて婚姻費用と言っています。
- 養育費,
- 慰謝料
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慰謝料というのは,相手方の不法行為によって被った精神的被害に対する損害賠償費用のことを言います。
世の中には,「離婚するなら慰謝料請求してやるわよ」などと,離婚するときには当然に他方へ請求できる費用だと誤解している方もいらっしゃいます。しかし,養育費などと違って当然に請求できるものではなく,「慰謝料」は,請求する側で相手の「不法行為」を立証することができて初めて請求することができるものです。
- 財産分与
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財産分与というのは,基本的には,(1)夫婦が婚姻関係中に築いた財産を分けることを言います。
民法768条は,財産分与の基準について,「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める」としています。
冒頭,基本的には,と申し上げたのは,判例上,財産分与の額を決めるにあたっては,(1)夫婦が婚姻関係中に築いた財産を分けるという清算的要素だけではなく,それに(2)離婚後生活に困窮する配偶者の扶養という扶養的要素,や(3)離婚に伴う損害賠償という慰謝料的要素も考慮されることがあるためです。財産分与は,婚姻関係中に築いた財産を分けるものですから,婚姻前にそれぞれが保有していた預貯金や,婚姻中であっても,それぞれの親から贈与や相続を受けた財産などは,財産分与の対象にはなりません。
それからよく,プラスの財産だけがもらえると誤解されている方もいますが,マイナスの財産も,夫婦で築いたものであれば,財産分与の対象です。典型的なのがローン付きの住宅ですが,時価2000万円の住宅に3000万円のローンが残っていれば,財産分与の対象としての評価はマイナスになります。
また,財産分与の割合は,常に50対50になるわけではない,ということにも注意が必要です。財産形成に対する貢献度などに応じて,60対40といった認定をする裁判例もあります。もっとも,専業主婦だからと言う理由だけで貢献度が少ないという認定されるわけではありません。