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改正ストーカー規制法を活かす!

改正されたストーカー行為等の規制に関する法律(最終改正:平成25年7月3日法律第73号。以下,「ストーカー規制法」と言います。)が施行になりました(一部につき平成25年7月23日,その余につき同年10月3日。法律条文は,法務省HPなどをご参照ください。)

法律は“道具”であり,法律がありさえすれば,被害者が守られたり,正義が実現されるわけではありません。どんなにすばらしい道具でも,人が使いこなせなければ,なんの役に立ちません。
ストーカー規制法は,言うまでもなく,ストーカー行為による被害者の方を守るための法律ですから,ストーカー被害に遭われている方,被害に遭うおそれのある方に是非,この法律を役立てて欲しいと思います。
同時に,ストーカー行為をしている方,してしまいそうな方には是非,この法律を罪と責任を自覚する機会とし,一線を越える前に踏みとどまっていただきたいと思います。

ここでは,改正ストーカー規制法の1つの目玉である“メール送信の規制”を題材に,被害者の立場からの活用法について述べていきたいと思います。

<設例>

以前に交際していた男性(または女性)から復縁を迫られており,携帯電話に,毎日のように「必ず返信して。」などと書かれたメールが送られてきます。

ストーカー規制法により可能なこと

ストーカー規制法により,被害者は,大まかに言って,次の4つのことが可能になります。

  1. 警告 警察署長から警告を発してもらうことができる(4条)。
  2. 禁止命令 警告に従わない者に対して公安委員会から禁止命令を発してもらうことがきる(5条)。
  3. 援助 警察に援助を求め,必要な措置を講じてもらうことができる(7条)。
  4. 刑事処罰 逮捕,起訴してもらい,刑事罰を与えてもらうことができる(13条,14条,15条)。

どのような場合に可能か。

「この人はストーカーです。」と言えば,なんでもかんでも上記対応をとってもらえるわけではありません。
さきほど「できる」と書いたことは全て,「証拠が揃って要件が整えば,やってもらえるかもしれない。」という意味です。
まずは,警察が動いてくれなければどうにもなりません。

  1. 警告を発してもらうための要件
  2. 禁止命令を発してもらうための要件
  3. 援助を求められる要件
  4. 刑事処罰をしてもらうための要件

は,それぞれ要件が違います。
これらの要件を理解する上で,次の用語を理解する必要があります。

<ストーカー規制法を理解するための用語>

a「つきまとい等」(2条1項):以下の目的で,以下の客体に対し,2条1項1号~8号の行為をすること

(目的−なんのために?)
「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」

(客体−誰に対して?)
当該特定の者又はその配偶者,直系もしくは同居の親族そのほか当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者

(行為−何をする?)
1号から8号の行為−条文参照
5号 電話をかけて何も告げない行為
拒まれたにもかかわらず,連続して,電話をかける行為
拒まれたにもかかわらず,連続して,ファクシミリを送信する行為
拒まれたにもかかわらず,連続して,電子メールを送信する行為

注:拒否,連続がなくても,他号に該当する場合もあります。

b「ストーカー行為」(2条2項):「つきまとい等」を反復してすること

注:「つきまとい等」には当たるが,「連続」しているとはいえ1度限りではまだ「反復」しているとは言えないのではないでしょうか。(私見)

c「つきまとい等をして不安を覚えさせること」(3条):「つきまとい等」をして,その相手方に身体の安全,住居等の平穏もしくは名誉が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせること

注:ストーカー規制法は,「つきまとい等をして不安を覚えさせること」を禁止しているのであって,単なる「つきまとい等」を禁止しているわけではありません。無論,通常「つきまとい等」をされれば,人は不安を覚えるわけですが,両者の違いは理解しておく必要があります。

上記a,b,cの用語をふまえ,上記(1),(2),(3),(4)が実現可能となるための要件は,それぞれ,以下のとおりとなります。

  1. 警告を発してもらえる場合
    「つきまとい等をして不安を覚えさせる」行為があり,かつ,それを反復するおそれがあると認めるとき
  2. 禁止命令を発してもらえる場合
    警告を受けた者が警告に従わずに「つきまとい等をして不安を覚えさせる」行為があり,かつ,それを反復するおそれがあると認めるとき
  3. 援助をしてもらえる場合
    「つきまとい等をして不安を覚えさせる」行為があり,警察署長が援助の申出を相当と認めるとき
  4. 刑事処罰をしてもらえる場合
    被害者が告訴をし,警察が捜査をし,検察官が起訴をし,裁判所が判決した結果
    ・「ストーカー行為」と認められたとき→6月以下の懲役又は50万円以下の罰金
    ・禁止命令違反の「ストーカー行為」が認められたとき,または,禁止命令違反の行為があった結果,「ストーカー行為」と認められたとき→1年以上の懲役又は100万円以下の罰金
    ・禁止命令違反の行為と認められたとき→50万円以下の罰金

救われるべき被害者が救われるために

道ばたで人が殺されていたら,放っておいても,警察は捜査をしてくれるでしょう。
ですが,ストーカー被害に限って言えば,黙っていたら警察は何もしてくれません。
たとえば,(1)警察署長から警告を出してもらうためには,ストーカー規制法上も,自ら「つきまとい等をして不安を覚えさせる」行為があり,かつ,それを反復するおそれがあると認められる事情を説明し,「警告を求める旨の申出」をしなければなりません。

では,ストーカー被害を受けているという申出をさえすれば,警察は動いてくれるでしょうか?
答えは「否」です。

最近の警察官の対応を見ていますと,証拠の有無にかかわらず,かなり初期の段階で,つきまとい等をしていると思われる男性,女性に対し,相談を受けた警察官が,やめるよう注意の電話をしてくださるようです。
ただ,この段階ではあくまでも行為の是非を前提としない口頭注意であって,ストーカー規制法上の警告や禁止命令のように,法律上の義務につながっていく措置ではありません。
現実には,警察官からの口頭注意を超えて,警告,禁止命令,刑事処罰へとつながっていく事案は,申出があっても限られているように思います。(もちろん,ストーカー行為をやめてもらうことが目的であって,ただ警告,禁止命令,刑事処罰につなげることだけが良いわけではありません。)
私は,警告,禁止命令,刑事処罰へとつながらない要因は,以下のとおりだと考えています。

(ストーカー行為があっても事件化されない要因)

I. 被害者が踏み切らない。

件数的に一番多いのは,やはりこれではないでしょうか。
被害者の一番の希望は,やめてもらうことです。
誰もが「逆上されたら怖い。」「処罰が目的ではない。」と考えます。
その気持ちはよくわかります。
ですが,警察は,被害者が救助を求めなければ介入できません。
救助を求めるタイミングを誤れば,悲劇につながることもあります。

II. 「つきまとい等」を認定するための証拠が足りない。

一般の方が多く誤解している点ですが,警察は,捜査権限を有する機関ですが,言えば何でもかんでも捜査してくれる機関ではありません。
選択と集中,社会的影響が大きいものや,証拠が明らかで事件性の高いものから順に処理されていきます。
たとえば,警察官の立場になって,以下の相談者とのやりとりを聞いてください。

これでは,警察官が頼りにできる情報は,相談者のあやふやな記憶しかなく,無言電話をかけてきたのがAさんであるか,もっと言えば,そもそも無言電話があったのかどうかもわかりません。
この程度のあいまいな情報で,警察官が,Aさんを一方的にストーカー行為者のように扱ったら,逆にその方が問題ではないでしょうか。
もちろん,本当にAさんが無言電話の犯人なのかもしれませんが,犯罪の疑いがあってこその捜査活動です。
ですから,受発信履歴の照会も含めて,この段階ではまだ,Aさんを犯罪者扱いするような捜査活動に踏み切れません。
この内容であれば,警察官は,一般的には,まずは,ナンバーディスプレイ機能付きの電話機に変更する,電話番号を変えてしまう,着信日時や通話を記録する体制を整えるといったアドバイスに止めるのが限界ではないでしょうか。

もちろん,私は,「証拠も無いのに警察に相談に行くな。」と言っているわけではありません。むしろ,このようにしてまず早い段階で相談に行かれることは大切なことだと思います。
ただ,警察から救助を受けることを権利として主張するのであれば,自らも証拠を整える努力をするべきです。
もちろん,被害者が全ての証拠を調える必要はありません。
ですが,証拠が全くなければ,警察は動き出すことすらできないということも理解しておくべきだと思います。

III. 警察の人員,能力不足。

最後に,警察の人員,能力不足もあげなければなりません。
被害者がどんなに苦しんでいても,明らかにストーカー規制法違反でしょうという案件でも,きちんと申出や告訴をしていても,警察はなかなか警告や捜査をしてくれない,そういう,時として腹立たしい現実は,やはりあります。
ただ,そこを警察批判だけで終わらせても,この問題は解決していきません。
ストーカー対策に対する現在の警察の体制は,十分とは言えませんが,この先どんなに充実したとしても,それが有限であることにはかわりありません。

不要不急の救急車の話ではないですが,本当に,差し迫った被害に苦しんでいる方がいる一方で,自分にとって都合の良いときだけ,むしろ警察権力を利用して相手を攻撃しようという考えで警察に持ち込む方もいらっしゃいます。
警察は,限られた人員,限られた人材,限られた予算の中で,そうした様々な事件を峻別しながら仕事をしているということも,理解する必要があると思います。
警察に救助を申し出る私たちの側も,可能な限り証拠等資料を調えた上で「私の事件は,ストーカー規制法上,警察が救助しなければならない事件です。」ということを説明する努力は,必要だと思います。

そのためには,前述したようなストーカー規制法上の要件,つまり,どのような場合に①警告,②禁止命令,③援助,④刑事処罰をしてもらえるのか,ということを,私たちの側も理解し,現実の被害を受けている場合には,それらの要件に見合うような証拠を調え,準備する努力をするべきでしょう。
それでも動かないのであれば,それは警察の怠慢ですから,正当に抗議するべきです。

警察からの対応だけがストーカー対策ではない。

ストーカー規制法の活用方法について縷々述べてきましたが,ストーカー規制法が規定しているのは,主として,これまで述べてきたような警察からの対応です。
最後に,警察からの対応だけがストーカー対策ではない,ということについても述べさせていただきます。
警察からの対応には,さまざまな限界があります。

そのほか,“いきなり警察沙汰”ということで,相手方との緊張感が増すということも,懸念材料のひとつにはなります。
警察からの対応だけが対応策ではなく,警察ではない第三者(弁護士等)を介入させる方法もありますから,ストーカーとされる相手方のレベルに応じた対策を考えることも必要です。

そもそも,この記事ですら冒頭で“ストーカー”と一括りで述べてしまっていますが,ストーカーと呼ばれる中にも様々なレベルがあります。
あなたも,好きな人に会いたくて,なんとなくその人がいそうな場所に出かけてみたことはありませんか。
相手の気持ちをよく考えもせず,好きな人に何通もメールを送信してしまったことはありませんか。
その場合でも,あなたに会った人や,あなたからメールをもらった人が,あなたのことが嫌いでなければ,あなたをストーカーとは呼ばないでしょう。

ひょっとすると,本当は嫌われていたのだけれど,たまたま相手の心が広かっただけでかもしれません。
ですから,本当は私もみなさんも,「つきまとい等」ぐらいはしているのかもしれません。
逆に,もしあなたに会いに来た人や,メールをくれた人が,お断りしなければならない相手だとしたら,あなたは,きちんとお断りしなければなりません。

あなたが言ってもわかってもらえないのであれば,ひとりで悩まずに,第三者に介入してもらうべきです。
(この点について私のHP中「男女問題」に書きました。)
レベルによっては,警察からの対応だけが解決策ではなく,むしろ,警察に救助を求めなければならないような状況になる前に,相手の行為がストーカー規制法等の法律に抵触しないうちに,相手に理解してもらることが,ベストな解決策であるように思います。
気づいてもらうことで,お互いに幸せな未来を得ることができるはずです。

設例について

最後に,設例に対する私の回答をお話ししたいと思います。

<設例>

以前に交際していた男性(または女性)から復縁を迫られており,携帯電話に,毎日のように「必ず返信して。」などと書かれたメールが送られてきます。

(1)ストーカー規制法に抵触するか

元交際相手に復縁を求めているわけですから,「つきまとい等」(2条1項)の〈目的〉,〈客体〉の要件は満たしています。
〈行為〉の要件うち,2条1項5号の行為に該当するためには,「拒まれたにもかかわらず,連続して,メールを送信すること」に当たる必要があります。
まず,「拒まれたにもかかわらず」と規定されていますから,相談者の方が,きちんと拒否していなければなりません。
復縁はもちろんのこと,メールを送信するのはやめてくれと伝えたのか,また,受信拒否ができるのであれば,受信拒否くらいはしてみるべきでしょう。(それをされない方が多いのも事実ですが。)

次に,「連続して」と規定されており,2度,3度ではダメですから,メールの受信状況をきちんと証拠として持っておく必要があります。
簡易な方法として,携帯電話で受信されたのであれば,自宅のパソコンなどに受信したメールを転送し,それを印刷されることをおすすめします。ただ,その方法だと,絵文字などがそのまま反映されませんので,証拠化するときには,携帯電話の画面をそのままデジタルカメラで撮影することもあります。また,ダウンロードするための専用ソフトもあるようです。いずれにせよ,受信したメールは保存し,消去しないようにしてください。

メールに書かれた内容そのものは,2条1項5号に該当するか否かの判断事由ではありませんから,「拒まれたにもかかわらず」「連続して」の要件さえ満たせば,単に「返信して。」でも,何もメッセージが書かれていなくてもよいです。
また,メールの内容によっては,「その行動を監視していると思わせるような事項を告げ」ること(2条1項2号)や,「その性的羞恥心を害する事項を告げ」ること(2条1項8号)など,他号に触れるケースもあるでしょうから,他号該当性の検討も必要です。なお,「殺してやる」などと書かれていれば,ストーカー規制法の要件にかかわらず,脅迫罪(刑法222条)が成立します。
そして,「拒まれたにもかかわらず」「連続して」メールを送信する行為が,「反復」してなされていると認定されるのであれば,当該行為は,「ストーカー行為」(2条2項)となり,警告,禁止命令の対象となることはもちろん,それらがなくとも(通常は警告,禁止命令の段階を経るのだと思いますが),被害者からの告訴があって,捜査,起訴,判決がなされれば,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されることになります。

(2)現実の対応策

交際の経緯,メールの頻度,内容,相手方の状況によって,様々な対応が考えられます。
すぐにでも警察に動いてもらわなければならない緊急性のあるケースもありますし,そうではないケースもあります。
緊急性があっても,すぐに警察が動いてくれるケースもあれば,証拠の有無などから動いてくれないなケースもあります。
前述したとおり,警察へ相談に行くのであれば,私たちの側でも,ストーカー規制法を念頭に,証拠や説明資料などをできるだけ準備して行くべきです。

また,緊急性がないことが前提ですが,相談者の側にも相応の落ち度があり,告訴合戦に発展しかねないようなケースでは,いたずらに事を荒立てるより,ソフトな和解的解決が望ましいこともあります。ただ,「自分にも落ち度があるから」「早く終わらせたいから」と言って,安易にお金を支払ってはいけないケースもありますから,注意してください。
いずれにしましても,ふさわしい対応策が何であるか,経験のある弁護士等の相談を受けることをおすすめします。こじれる前にできるだけ早い時期に対応をとること,ひとりで抱え込まず,第三者の視点を交えて状況を整理してみる,ということが非常に大切だと思います。

(弁護士伊東克宏,最終更新:平成25年11月7日)

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