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弁護士からの強引な慰謝料請求にご注意!

先日,以下のようなご相談を受けました(事実関係を一部変えてあります)。

私(「A子さん」とします。)は,妻のある男性と交際していました。昨日,妻側に就かれた弁護士(「甲弁護士」とします。)から,このような請求書が届きました。
「・・・貴殿の行為により○○氏が被った精神的損害は,金500万円を下るものではありません。本書面送達後3日以内に当職宛てに電話連絡をしてください。連絡をいただけない場合には,連絡手段確保のため,やむを得ず,貴殿の勤務先等を通じて連絡を差し上げる場合もありますのでご承知おきください。」

弁護士からの強引な慰謝料請求にご注意!
今日が期限でしたので,さきほど慌てて甲弁護士に電話をしましたが,一方的で話し合いになりません。手紙の内容を読むと勤務先に連絡されるのではないかと不安です。

「勤務先等を通じて連絡を差し上げる場合もあります。」

私も,請求する側で依頼を受ければ,請求書に「連絡がなければ訴訟提起します。」「請求に応じなければ訴訟提起します。」とは書きます。
依頼人から訴訟の可能性もふまえて委任を受けていますし,当事者間で話がつかなければ訴訟にするほかないわけで,これらは本当のことですから書きます。
ですが私は,甲弁護士のように,最初から「貴殿の勤務先等を通じて連絡を差し上げる場合もあります」などとは書きません。
たしかに,やむを得ず勤務先に請求書を送ることが全く無いわけではありませんが,それは,住所に手紙が送達されないが勤務先はわかっているといった場合に初めて採るべき手段です(民事訴訟法103条2項参照)。

「勤務先等を通じて連絡を差し上げる場合もあります。」

相手方が住所にいて訴状が届くのであれば,訴訟提起はできます(民事訴訟法103条1項)。
甲弁護士がA子さんに手紙を送るのはこれが最初であり,だからこそ甲弁護士は,A子さんの自宅に請求書が届くことを確認するため,配達後に配達証明書が送られてくる内容証明郵便で請求書を発信しています。手紙が届いて連絡がつくのであれば,「職場を通じて連絡」する必要などないわけです。
必要もないのに最初からこのようことを書くのは,甲弁護士が,手紙を受け取った相手方が職場に連絡される可能性があると誤解し,畏怖することを意図しているからです。
要するに脅しであり,弁護士としてやってはいけないことだと思います。

執拗な説得 〜 他の弁護士に相談する機会を与えない。

過去に何度か請求をしていたのであればともかく,最初から「送達後3日以内」という回答期限を設定することも,あまりに強引ではないでしょうか。
甲弁護士は,同じ内容の請求書を,A子さんが不在の場合を想定して,内容証明郵便(書留)だけでなく,普通郵便でも郵送していました。

たまたま自宅を不在にしていたため,内容証明郵便は4月3日に受け取りましたが,普通郵便は4月1日には届いたので,A子さんは,4月1日から数えると請求書を受け取った翌日の4日には連絡しないといけないと考えたようです。
A子さんが,受け取った翌日に慌てて甲弁護士に電話をし,「私もほかの弁護士に相談してから回答したいのでもう少し待ってほしい。」と話をしたところ,甲弁護士から「どうして私の請求に応じないのか。裁判になったらたいへんですよ。」などと,1時間以上にわたって執拗な“説得”を受けることになりました。

執拗な説得 〜 他の弁護士に相談する機会を与えない。

良識ある普通の弁護士であれば,とりあえず「それならあなたも弁護士に相談した上で,すみやかに回答をください。」と言って電話を切っています。
A子さんは,法律知識の無い一般の方です。
相手方が自分も弁護士に相談したいと言っているのであれば,その機会を与えるべきであり,他の弁護士に相談する機会を奪って執拗な請求を繰り返し,拙速な判断を促すべきではありません。
一般の方の知識不足につけ込んだアンフェアな行為であり,弁護士としてやってはいけないことだと思います。

結局,依頼人のためにもならない。

甲弁護士のような強引な請求行為は,甲弁護士に依頼をした側から見ると,一見勇ましく,頼りがいがあるように見えるかもしれません。
ですが,強引な請求行為が度を超して違法行為になれば,代理人の責任は本人に帰属し得ますから(民法110条等),依頼した方も「甲弁護士に任せていました。」ということだけで責任を免れるとは限りません。

代理人の責任は本人に帰属し得る

そこまでは至らないとしても,代理人の弁護士が,アンフェアで脅しをするようなおよそ交渉に値しない人物だと判断されれば,相手方ができれば話し合いで解決したいと考えていたとしても,協議でまとまる可能性を最初から断ち切ってしまいます。
結局,このような強引な請求行為は,依頼人のためにもならないと思います。
弁護士として,依頼人のためには,当然にベストを尽くすべきですが,ワンマンで強引なやり方をした結果,その責任を背負わせるのも依頼人だということを忘れてはいけません。

まずは法律相談を。

同じバッジをつけた弁護士が,このような強引な請求行為をしていることには憤りを覚えますし,悲しく思います。
ですが,このような請求をする弁護士が増えてきていることも事実のようです。
弁護士からの請求書であっても慌てて結論を出さず,一度は信頼のできる弁護士の法律相談を受けてください。

(最終更新:平成26年9月11日,弁護士 伊東克宏)

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