弁護士 伊東克宏のブログ
Katsuhiro Ito's Blog
遺留分の放棄について
先日,遺留分の放棄について相談を受けましたので少し書いてみます。
事業承継を目的として,相続人の1人に資産を集中させたいと考える場合に,他の相続人に予め遺留分の放棄をしておいてもらう方法があります。
社長XさんにA男とB女という2人の子がいるという事例で考えてみましょう。
遺留分とは,一定の相続人のために,相続に際して法律上取得することが保障されている遺産の一定の割合のことをいいます。
この遺留分を侵害した贈与や遺贈などの無償の処分は,法律上当然に無効となるわけではありませんが,遺留分権利者が減殺請求を行った場合に,その遺留分を侵害する限度で効力を失うことになります。
単純に,Xさんが遺言で「財産は全部A男に相続させる」と書いた場合には,B女から4分の1の割合で遺留分の請求を受ける可能性があります。
それを支払えるようにしておくというのが本来の相続(人)対策ですが,相続税などの負担もあり,支払困難ということになれば,A男に集中させるべき会社株式等の資産でB女に分配しなければならない事態もあり得ます。
生前に,B女に相続放棄させることはできませんが,遺留分については,相続の開始前(被相続人の生存中)に,家庭裁判所の許可を得て,あらかじめ遺留分を放棄することができます(民法1043条1項)。
もちろん,遺留分減殺請求をするかどうかは自由ですから,Xさんの他界後,B女が請求しなければ済む話ですが,それを決する時点でXさんはこの世におりませんから,保証の限りではありません。
ですから,事前に遺留分を放棄してもらっておけば安心ということになります。
そのようなこともあり,遺留分の放棄については,家裁でも年間全国で1000件程度の利用件数があるようです。
遺留分放棄の許可は,被相続人となる者の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行いますから,Xさんの住所地を管轄する家庭裁判所にB女から申し立ててもらいます。
家庭裁判所は,権利者の自由意思,放棄理由の合理性・必要性,放棄の代償の有無などを考慮して許否を判断し,相当と認めるときは,許可の審判をします。
ここで問題になのは,家庭裁判所は,どんな理由でも許可してくれるわけではないということです。
許可されたケースとして,子である申立人と父親に親子としての交流がなかった例で,お互いの相続についての遺留分の放棄が,実質的な利益の面で不利益とはいえないとされています。
許可されなかったケースとして,5年後に300万円の贈与を被相続人がするという約束のもとで被嫡出子の放棄の申立をしたところ,贈与の現実の履行が不確実であるとして却下されたケースがあります。
遺留分を放棄しても,他の共同相続人の遺留分は増加しません(民法1043条2項)。
また,遺留分放棄は相続放棄とは異なり,相続人でなくなるわけではありません。
上記事例で,「会社の株式はA男に相続させる」という遺言であれば,株式以外の財産については普通にB女も相続します。
遺留分の放棄は,遺留分侵害があっても,遺留分減殺請求をしないという約束にすぎないのです。
もしXさんに借金などがあればそれも相続してしまう可能性がありますから,借金を相続したくなければ,B女は遺留分の放棄をしたからと安心せず,相続を知った時から3か月以内に相続放棄をしなければなりません。
遺留分放棄許可審判がなされた後,遺留分放棄許可を取り消したり変更したい場合には,家庭裁判所に申立てをし,家庭裁判所の許可があれば取消や変更ができます。
そこでも,許可には合理的な理由が必要であり,どんな理由でも取消や変更が認められるわけではありません。
ですが,取消や変更もあり得るという意味では,B女に遺留分の放棄をしてもらった後でも,Xさんの不安が絶対的に解消されるわけではありません。
したがって,遺留分の放棄をしておいてもらうことも,1つの対策ではありますが,相続(人)対策として,まずは,遺留分相当額をB女に遺しておくか,もしB女に生前に贈与したものがあるなら,A男からB女に特別受益が存在することが主張できるよう証拠化しておくことを考えるのが先かと思います。
(H30.2.8,震災対策技術展において,技術士会さんからもらった防災グッズ)
2018年2月11日、カテゴリー:「日々あれこれ」(日記)
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