弁護士 伊東克宏のブログ
Katsuhiro Ito's Blog
コロナウイルス感染症の影響で休業を余儀なくされた中小事業者の方へ
緊急事態宣言が出されて以来,中小事業者の方々(私もその1人です)は,資金繰りに苦労し,先行きの見えない不安な日々を過ごされていると思います。
その方々に向けて,多少なりとも,災害時の被災者支援や,会社の負債整理に携わってきた弁護士の立場で述べておきたいことを書きます。
皆さんの考えをまとめる時や,先行きが見えずに不安を抱えている時の,“支え”になれれば嬉しいです。
なお,私の経験に基づく話ではありますが,私個人の見解であることをご了承ください。
また,お役に立てるかわかりませんが,神奈川県内の事業者の方でもし迷われていることがあり,どうしても私と話をされてみたい方は事務所(代表045-312-9061)へお電話ください。
私の事務所も業務縮小しており,可能な範囲での対応になりますが,できる範囲で電話相談に応じたいと思います。
〈お願いしたいことの骨子〉
1.あなたとあなたの家族が生きていることが一番大事。
2.最後の最後まで,人,人,人。人を大事に。
3.実施すべきことの順序が肝心。
×取引業者への支払を後回しにして金融機関に返済をする。
×テナント賃料を支払って従業員への賃金を未払にする。
×既存融資の返済猶予を求める前に新規融資の申請をする。
追い込まれると,人はどうしても矛盾した行動をとります。ここは冷静に。
4.手持ちの現金をできるだけ切らさないこと。
負債超過になっても,キャッシュフローが途切れなければ事業は継続できます。
5.自分と家族の当座の生活資金は絶対に確保。
明日の生活資金をつぎ込んでまで事業継続すべきではありません。
6.事業のための返済や支払のために,サラ金等の高利貸しから金を借りることは絶対にしない。
借りて良いのは,手持ちの生活資金が不足し,各種支援も受けられず,どうしても生活資金を借りなければならない時だけです。
〈施策と順序〉
置かれている状況は,個々に違うはずですが,以下の順序を基本に考えていただくのがよいと思います。
1 事業所(店舗,事務所,工場等)の休業
やはり命が大事。あなた,あなたの家族,従業員,お客様が感染したら元も子もありません。
2 従業員の休職・在宅ワークへの転換
たとえ不採算であっても,感染リスクを避けて継続できる業務があるのなら,業務停止より業務継続の方がよいと思います。
3 他事業の展開
あなたの会社で,危急時に社会貢献できる事業活動はありませんか。今できることで,将来に投資をしましょう。
4 各種補助金申請
多少手続が面倒でも,利用できるものがあれば利用しましょう。
経済産業省のコロナウイルス関連支援情報
https://www.meti.go.jp/covid-19/
5 税金・保険料等の猶予申請
延滞税等のペナルティが無いことが前提ですが,今支払わなくてよいものは,できる限り支払わないでおきましょう。
6 金融機関との支払繰延や利息免除の交渉
あなたの会社が潰れてしまったら,金融機関だって困ります。
この状況ですから,金融機関も柔軟に対応せざるを得ませんし,国も柔軟な対応をするよう指示を出しています。
金融機関への返済より,運転資金の確保が絶対に先です。
そして,新たな借入を検討することより,まずは手持ち資金の流出を止めることの方が先です。
7 各種融資申請
当面の間,無利息で無担保の融資制度もあります。
ただし,借りたものはいつか返さなければなりません。返済能力を超える借入をしてしまうのは,再起の際の足かせになる可能性があります。
借入の目的は,あくまでも,運転資金の確保,事業継続のためであることを忘れないでください。
借り入れた金で,取引業者への支払はしてもよいですが,金融機関への返済(借換を除く)をすることは本末転倒であり,やめてください。
「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf
8 テナント賃料の繰延交渉・不払
この状況下では,平常時の「賃料不払い3か月で明渡し」というルールの適用も微妙です。
国も,賃貸事業者に対し,賃料免除については全面的に損金計上を認めることを指示するなど,賃貸業者に対する各指示や施策を出してきています。
まずは,貸主に現状の説明をして交渉してみましょう。
「待ってあげます」というお人好しの貸主はいませんが,だからと言って,直ちに明渡訴訟を提起してくる貸主もいません。
貸主側も,他に入居者の見込みが無いのであれば,空きが生じるだけで,本来は,優良な賃借人を失いたくはないはずですし,退去によって保証金の返金を迫られる貸主の負担も大きいですから,免除・減額・猶予については,交渉の余地は十分あります。
もちろん,条件と見通し次第では,あなたの経営判断として,一旦退去してやり直す方法もあり得ると思います。
国土交通省土地・建設産業局 不動産業課長 事務連絡
https://www.zentaku.or.jp/wp-content/uploads/2020/04/20200409事務連絡.pdf
9 取引業者との繰延交渉・不払
苦しいのはお互い様です。
どうしようもないなら,ダメで元々なので,胸襟を開いて交渉してみましょう。
国も,元請事業者に対しては,柔軟な対応をするよう指示を出しています。
もちろん,払ってもらわないと困る側と,払うことができない側とでは,話が合わなくても当然です。
ケンカ別れになっても,誠意ある態度を示しておくことで,取引関係を維持できることもあります。
10 従業員の解雇・会社都合による退職勧奨
給与の支払遅延を続けると,かえって従業員に迷惑をかけてしまいます。
たいへんつらい選択ですが,時機を間違えるとかえってダメージを広げてしまいます。
決断すべき時は決断をし,従業員に伝えましょう。
あなたとあなたの家族にも生活があります。
従業員の生活を守ることは事業者の使命ですが,あなたとあなたの家族の生活資金が尽きるまで頑張るのは,絶対にやめてください。
11 コロナウイルス感染症禍の終息を待つ
たとえ多額の負債を抱えたとしても,従業員が一人もいなくなったとしても,テナント賃料を何か月も滞納するような事態になったとしても,あなたはまだあきらめないでください。
世の中の成り行きにまかせて構いません。
再起の日に備えて,今はただ静観していましょう。
あなたの会社,事業所,店舗という事業や雇用の受け皿を残しておくことが,将来,役に立つ日が来るかもしれません。
12 支払不能か否かの判断時期
債務超過,支払不能になったからと言って,あなたの会社やあなたが破産手続をしなければならない法律上の義務はありません。
どうしても債権者が,あなたやあなたの会社に対し「支払わないなら破産でもしろ」と言うのであれば,「債権者申立て」と言って,債権者側で申し立てればよいのです。(費用を債権者側で負担しますので,わざわざこれを申し立てられるのは稀です。)
世の中が落ち着いて,先行きの見通しが立った段階で初めて,本当に支払不能か否か,事業再開の可能性を検討してください。
どこかの段階で,債務の支払猶予や免除について,新たな法制度により,別のルールが設定されている可能性もあります。
特に今は,とこの裁判所も手続が停滞しており,慌てて破産を申し立てるメリットはほとんど無いように思われます。
13 自己破産・民事再生・特定調停・任意整理など
世の中が落ち着いてあなたが再起しようとした時,債権者と交渉しても,毎月返済すべき額の合計が事業継続によって返済できる金額を越え,そのまま事業継続しても到底展望が開けないようであれば,負債を抱えたまま事業継続しても仕方がありません。
弁護士と,法的な負債整理の方法を検討しましょう。
14 他会社への事業譲渡や二次会社方式等による事業継続の検討
会社を破産させても,また,同時にあなた自身が自己破産することになっても,あなたがこれまで築いてきた全てが奪われるわけではありません。
破産をしても,法律上,最低限の資産保有は認められていますし,保証人でもないあなたの家族が支払責任を取らされるわけではありません。
たとえあなたの家族が保証人であっても,保証人への追及を制限するための一定のルールも存在します。
あなたが生きていて,まわりの人も生きていれば,あなたが行ってきた事業を再開する方法はいくつもあります。
採るべき手段と順序を間違えず,最後まで賢く,真摯な対応を続けてきたあなたには,まわりの人もついてきてくれるはずです。
2020年4月14日、カテゴリー:「日々あれこれ」(日記)
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