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民法等改正法(令和6年法律第33号)を見据えた離婚 ~改正法施行前に離婚すべきか改正法施行後に離婚すべきか
民法等改正法(令和6年法律第33号,以下,これを「改正法」と言います。)が公布され,改正法が,公布日の2年後,つまり,2026年5月までに施行されるそうです。
私は,離婚に関する相談を受けることも少なくありません。
過去の取扱事件数も,年齢に比例してかもしれませんが,比較的多いと思います。
私は相談の際,いつもベースの話として,「離婚する際に決めなければいけないことは,次の4つですよ。」というお話しをします。
① 離婚するのかしないのか
離婚できるのか。裁判上の離婚原因はあるか。できるとして離婚すべきか。離婚しない方がよいのか。
② 未成年子の親権者を父にするか母にするか
現行法では,未成年氏がいる場合,子の親権者が決まらないと,離婚はできません。
③ 養育費の請求があるのか
未成年子がいる場合,支払能力がある方が支払うことになります。
養育費の支払義務は請求時から発生するとされており,請求したければきちんと請求書を出し,その後,合意して支払ってもらうか,合意できなければ調停・審判で決めてもらわないと支払ってもらえません。
④ 財産分与を求めるか
婚姻中に築いた財産を,少ない方が多い方に請求して,基本,半々で分けてもらいます。
①離婚と,②未成年子の親権者は,離婚するのに法律上決定する必要があることで,③養育費と④財産分与は,多くの場合に①と②と同時に決めていることです。
今回の改正法が施行されると,このベースの話が,少し(人によっては「大きく」かもしれません。)変わります。
① 離婚
裁判上の離婚原因を民法770条1項を規定していますが,「強度の精神病」(3号)が削除されました。(もともと死文化していたと言ってもよいかもしれません。)
② 未成年子の親権者
これまで離婚後は父か母の単独親権しかありませんでしたが,共同親権を合意したり,裁判所に決めてもらうことができるようになります。
また,離婚について合意できることが前提ですが,親権者指定の調停・審判を申し立てていれば,夫婦間で親権者が決まっていなくても,協議離婚届を受理してもらえるようになります。
③ 養育費
改正法により,「法定養育費」という制度ができて,離婚時には請求していなかったとしても,一定額(金額はこれから決めるそうです。)であれば,後からでも離婚時から請求できるようになります。
また,養育費の合意書が作成されていれば,調停・審判を経ていなくても,一定額に限り,先取特権により他の債権よりも優先的に回収できたり,回収についても,財産開示制度が拡充されています。
④ 財産分与
財産分与の請求は,現行法では,離婚から2年内に請求しないとできなくなりますが,改正法の施行後に離婚すると,離婚から2年を経過しても,5年内なら請求できるようになります。
改正法の内容は上記に止まりませんから,その他の詳細は法務省HPなどの説明に委ねます。
さて,表題の副題,「改正法施行前に離婚すべきか改正法施行後に離婚すべきか」といった話に戻すと,“改正法だけ”を理由に,改正法施行まで離婚を先延ばしする理由がある人は,例えば,以下のような方でしょうか?
○離婚後に,未成年子について,共同親権としたい方
現行法上,離婚後は,単独親権しかあり得ませんので。
なお,改正法施行後の離婚であれば,必ず共同親権にしてもらえると誤解しないでください。
○離婚後2年内ではなく,離婚後5年内に財産分与請求をしたい方
改正法も分与される財産は,あくまでも婚姻中に夫婦で築いた財産であり,すでに別居していれば,改正法施行後まで離婚を先延ばしにすることで金額が増えるわけではありません。普通は,証拠の散逸などを考え,通常,離婚と同時に請求した方がよいです。
ですが,事情によりどうしても,財産分与を離婚後2年を経過した日から離婚後5年までの間に請求したい方は,施行後に離婚しないといけません。
再び私の離婚相談の話に戻りますが,相談者の方の多くは,そもそも離婚すべきかどうかで迷っておられることが多いです。
夫婦の経緯や状態は千差万別ですので,一概に,「離婚した方がよい」「離婚しない方がよい」とは申し上げられません。
それでも,ご相談の中では,経緯や状態をお聞きし,調停・審判・訴訟になった場合も想定して分析し,法制度の枠の中で,離婚した場合のメリット・デメリット,離婚しない場合のメリット・デメリットをご説明させていただくことになります。
その上で,「結婚」「人生」「幸福」といったことに対する価値感は,百人百様に違いますから,最後はご本人に判断いただくことになります。
夫婦も,法律というルールの中の存在である以上,夫も妻も,ルールの無視や,ルールの誤解はあってはならないと思います。
当事務所は,離婚相談について,法律相談のみでも受け付けておりますので,是非いらしてください。
最後に,また余談を。
改正法で,私の好きだった夫婦間契約取消権の条文が削除されてしまいました。
この条文です。
(夫婦間の契約の取消権)
第754条 夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
素直な心で読むと,「あなた,夏休みは旅行に連れて行ってくれるって約束したじゃない。」「ごめんな。」も夫婦間なら許される・・みたいな条文で,私は好きでした(そう読むのは私だけかもしれません。)。
夫婦であっても,破ってよい約束とそうでない約束があるだろうということで,死文化していましたから,実務には影響がないと思います。
令和6年12月5日
弁護士 伊東克宏
2024年12月5日、カテゴリー:「男と女の法務」
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