弁護士 伊東克宏のブログ
Katsuhiro Ito's Blog
未分割の収益物件(賃貸アパートなど)の問題
先日,ある税理士さんと話した話題を,設例としてとりあげて書かせていただきます。
〈説例〉
7年前に父が他界しました。相続人は,兄と弟である私の2人だけです。相続財産として,父名義のアパートがあります。兄が「あとで半分ずつきちんと分けるから。」と言うので,これまで兄に任せっきりにしてきました。登記上の所有者も父名義のままですし,アパートの収益は,兄が父名義の預金口座に入れて管理していると聞いています。私がサラリーマンということもあり,家賃所得にかかる所得税の確定申告も納税も,兄にやってもらっていました。最近になって兄に「そろそろお金を半分に分けてください。」と言った途端,「俺が信用できないのか。」と言って兄が怒りだし,電話にすら出てくれなくなりました。
もうじき3月15日の確定申告の期限が来ますが,今年は私の分の確定申告まではしてくれそうにありません。
このような私でも,確定申告をしないといけないのでしょうか?
私は一銭ももらっていないのに納税もしないといけないのでしょうか?
〈未分割のままになってしまう理由〉
遺産分割協議をしないまま,もう10年も20年も前に亡くなった方の名義のまま,賃貸アパートなどの収益物件を管理しているケース・・・結構多いです。
皆さんのまわりにも,そういうケースはありませんか?
遺産分割をきちんとしようと思えば,相続人どうしで話し合わないといけなければなりません。話がまとまらなければ調停や,審判の申立をしなければなりません。誰が相続するか決まった段階で,収益物件を引き継ぐ人が他の相続人に代償金を支払わないといけなかったりします。相続登記もしないといけません。そのほか,賃借人との関係では,賃借人に賃料の支払先口座の変更を通知し,賃貸借契約書を作り直さないといけなかったり・・・いろいろ面倒くさいですよね。
それに,誰だって親族間の揉め事は嫌ですし,大切な方が亡くなられた後ならなおさら後回しにしたいです。
それで,相続人のひとりが,「とりあえず俺が代表で管理するからいいだろ!」と,周囲の方を押さえ込んでしまうと,他の相続人も揉めたくはないのでそのまま・・・ということになりがちです。
ただ,そうしたケースでも,相続開始後10か月以内に,相続税の申告と納税だけはしないといけません。
そこは,そのひとりの方が,「俺がやっておくから。」と言うと,他の相続人も,「自分もわからないし,任せるよ。」と言うわけです。
たとえば,そのひとりの方が税理士に依頼し,他の相続人も追随して同じ税理士に依頼し,未分割のまま相続税の申告だけはしておき,納税は,とりあえず残っていた現金の中から支払います。
そこまでは良いのですが,問題は,そこで一件落着になってしまい,そのまま10年,20年ということになっていくケースが多いことです。
税務署は,どんな形にせよ,家賃所得に対する税額が全部支払われていれば,登記が故人名義だろうが,相続人間の賃料配分がメチャクチャだろうが,ほとんど文句を言いません。
市役所も,相続人の代表者が固定資産税を全額支払っていれば,文句を言いません。
法務局も,登記上の所有者名義を故人のままにしていても,文句を言いません。
こうして,相続人の誰かが言い出さないと,「ず~っとそのまま」,になっていくわけです。
ですが,「ず~っとそのまま」にすると,あとで,「たいへんなこと」になります。
〈未分割のまま放置することで生ずる問題〉
「たいへんなこと」には,大きく言って2つあります。
① 遺産分割協議の困難化
人は死にますので,10年も経てば,「任せるよ。」と言った方もいなくなり,相続人のメンバーも変わり,人間関係も複雑になります。
たとえば,相続人の兄弟が死に,その兄弟の子らが相続すれば,人数も増えますし,付き合いも希薄化してきます。
最近の傾向では,権利意識の高い相続人もどんどん増えています。
人数が増え,人間関係が希薄化するほど,遺産分割協議で話をまとめることは困難になり,調停,審判をしなければならず,人的負担も経済的負担も大きくなっていきます。
② 収益清算の困難化
こういうケースでは,ほとんどの場合,毎年の収益分配をいい加減にやっています。
きちんと帳簿をつけていなかったり,配分率もデタラメだったりします。
中には、収益分配を思いどおりにしておきたくて、遺産分割をしないままにしているケースもあります。
収益分配をきちんとやろうと考えるほど,これを続けるのは複雑で面倒ですから,早い時期に遺産分割協議,ダメなら調停でも審判でもして,収益物件の帰属を決着させるほかはないと気がつくはずです。
過去の収益分について,何年も経ってから,「本当はこれだけもらえたはずだ。」などとまとめて請求されると,請求された側は,結構たいへんです。
請求する側も,証拠の散逸や消滅時効の問題が生じますから,分配してもらうつもりがあるなら早めに請求するべきです。
結果,そもそも遺産分割をしないまま放置すべきではない,ということになります。
〈説例の回答〉
説例についていえば,未分割であっても,収益物件の共有者である以上,確定申告をしなければなりません。
家賃収益を一銭ももらったことがなくても,家賃所得×法定相続分に対応する所得税を納めなければなりません。
前年までは,兄が弟の名前で所得税の申告をし,弟が受けるべき収益の中から弟の税金を納めていたようですが,本来は弟の申告・納税ですから,兄がしなければ,現実に収益を受け取っているか否かにかかわらず,弟が,得るべき所得に対する申告をし,税金も納めなければなりません。
まともに収益分配を受けていないのに納税をすることになった弟はどうすべきかと言うと,「もらっていない収益分を,兄から取り返せ。」ということになります。
兄と話ができない,あるいは,話合いで決着がつかなければ,未払収益分を返せという訴訟を地方裁判所(又は簡易裁判所)に提起することになります。
そのほか,未分割の相続財産についても決着させなければなりませんから,遺産分割調停を家庭裁判所に申し立てることになります。
未払金の返還請求訴訟でも,遺産分割調停・審判でも,要するに,7年前の相続開始時にさかのぼって,過ぎた過去の話をしなければならなくなります。
ここまでくると,多くの方は,「あのとききちんとしておけば。」と気づくのではないでしょうか。
〈法律相談のススメ〉
以上のとおり,未分割の収益物件をそのまま放置している方が少なくありませんが,まったくもって感心しません。
世の中には,時間が解決してくれることもありますが,遺産分割に限っては,そうではないように思います。
むしろ,問題の先送りが,更なる紛争(未払金の返還請求訴訟など)や,取り返しのつかない状態(消滅時効など)を生じさせることもあります。
また,こうした遺産分割の問題が生じないよう,収益物件を遺していく方は特に,遺言で,収益物件を誰に相続させるのか,決めておいた方がよいです。
というわけで,もし抱えている問題の重要性に気がつかれた方がおられたら,是非弁護士の法律相談を受けてみてください。
きっと良い解決方法が見つかるはずです。(弁護士 伊東克宏)
2013年3月21日、カテゴリー:「日々あれこれ」(日記), 弁護士 伊東克宏ブログ
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