弁護士 伊東克宏のブログ
Katsuhiro Ito's Blog
初入者等に対する刑の一部執行猶予制度
- 「主文,懲役3年。そのうち2年間についてその刑の執行を5年間猶予する。」
時々,知らないうちに重要な法改正が行われている時があるので驚いてしまいます。
(「あなたの勉強不足だよ。」とつっこみを入れていただければ・・。)
たいして世の中で議論されることもなく通過してしまう重要な法律改正ってありますよね。この制度(初入者等に対する刑の一部執行猶予制度)の導入も,そのような法律改正のひとつではないかと思うわけです。
わかりやすく書こうと思います。
- 山田太郎さん,23歳は,金に困って,事務所荒らし(窃盗)を重ねていました。
そう簡単に悪事が続けられるはずもなく,逮捕されて,このたび,裁判官から判決をもらうことになりました。
検察官は,懲役3年の求刑をし,弁護人はこれまで前科がないこと(初犯)であることなどを理由に執行猶予の判決を求めています。
今まで,裁判官には,次の①,②の二択しかありませんでした。
①実刑にする。
たとえば,・・「主文,懲役2年に処する。」
②(全部の刑を)執行猶予にする。
たとえば・・「主文,懲役3年に処し,5年間その刑の執行を猶予する。」
ところで,平成25年6月13日,「刑法等の一部を改正する法律」(平成25年法律第49号 が成立し,同月19日に公布されました。この法律は,公布の日から3年を超えない範囲内で施行されることになっていますので,遅くとも平成28年6月18日までに施行されることになります。
この法律が施行になりますと,第三の選択肢が生まれることになります。
③一部の刑の執行を猶予する。
たとえば・・「主文,懲役3年。そのうち2年間についてその刑の執行を5年間猶予する。」(簡単に言うと,懲役3年だけど1年間刑務所で服役したら外に出てきていいよ。5年のうちに再犯したら刑務所に戻って残りの2年間お務めしなさい,ということ。)
※一部執行猶予が認められる場合の要件や,同時に公布となった「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」に関する話は,ここでは省きます。
→法務省のHPhttp://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00072.html
全然話しはかわりますが,今日は関内ホールに,桂歌丸師匠の落語を聞きに行きました。師匠のお話では,大岡越前の時代,今の“判決”のことを,「落着申し渡し」と言ったそうです。
この大岡越前,落語やテレビの世界では,悪い意味では無茶苦茶な,良い意味では柔軟な解決をやってのけます。
今回の刑法改正によって量刑判断における裁判官の選択肢の幅が広がり,前よりは柔軟な“落着申し渡し”(判決)が可能になりそうです。
弁護士としては,この法律がいつ施行になるのか,結果,量刑相場がどう動くのか,気になるところです。
施行前の現段階から,改正法の趣旨を弁論の中に盛り込んでいくこと(たとえば「改正法では一部執行猶予もあり得る事案だから執行猶予判決に。」と主張するなど)も,一考の余地があるかもしれません。
ちなみに,今日聞いてきた歌丸師匠のお話のあらすじ(私の記憶の限り)。
小商人の主人公が大阪へ長期出張の折,箱根あたりで,暴漢に襲われた江戸の大商人の主人を助けます。ところが,その主人が病がたたって翌日死んでしまいます。その死体を主人公の死体だと勘違いをして引き取った知り合いが気を回し,主人公の女房に,別の男性をあてがって夫婦にしてしまいます。約1か月後に戻ってきた主人公が,夫婦らに文句を言うが別れてくれない。自分が引き下がるのはおかしいと奉行所に訴えたところ,大岡越前が,「自分が仲立ちになるから,死んだ大商人に代わって主人の座につきなさい。」と言い,大商人の美人の妻も説得し,めでたく主人の座に納まりました,というお話。
じゅ・・柔軟と言うか・・恐るべし大岡越前。
(平成26年3月23日 弁護士 伊東克宏)
2014年3月24日、カテゴリー:「日々あれこれ」(日記), 弁護士 伊東克宏ブログ
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